Little Curly

サークルLittle Curly/詠野万知子のBLOGです。
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# 【御礼】Innocent Forest 5周年です。

■5周年です。

「Innocent Forest #01灯の鳥」の刊行から、今年で5年になります。

 

ルクレイの10周年記念、とひそかに銘打っていたシリーズも5周年になりました。

 

 

#01を刊行したときには想像もしなかったほどのたくさんの出会いがあり、とても嬉しく思います。

「Innocent Forest」刊行前は、ルクレイと言ってそれがこのキャラクターだと分かる人は、私自身と、私の身近なほんの数人だけだったのです。

以前の私は、ルクレイのことを知っている人を全員把握していたと言えます。ですが今は、私の知らないところにも、ルクレイのことを知っている方がいます。

びっくりですね。嬉しいです。

ありがとうございます!

 

というわけで新しい掌編を掲載します。

タイトルは「プレゼント」です。

 

 

ルクレイの設定上の誕生日が「4月10日」でした。

#01の発行日は2014年8月でしたが、

せっかくなのでこの日を5周年記念の記事を書くきっかけにしました。

これからもよろしくお願いします!

 

今年は朗読CDを作りたいなと思っていて、ちょっとずつ動き始めています。

あと、「ルクレイのコスプレをしているお嬢さんに買いに来てもらうこと」がひそかな野望です。コスプレ可の会場で、いつか見れるといいな〜。

 

以下は宣伝です。

 

 

■第2集、第3集はBOOTHでお求めいただけます。

 第1集はアリスブックスにあります。

 BOOTHでは、全巻ダウンロード版も始めております。PDFデータです。

→BOOTH

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◆MyDearest.inc様発のコンテンツ、FullDive Novel版もよろしくお願いします。

→FullDive novel | Innocent Forest

 

 

 

 

 

 

 

 

【プレゼント】

 

「あなた、自分のお誕生日を知らないの?」
 びっくりしてしまって、つい大きな声が出た。
 天井の高いサンルームいっぱいに、自分の声が何度も響くのが少し恥ずかしい。
 気を悪くしてないかな、と心配になって様子をうかがう。けれど、ルクレイは少しも気にしていない顔で、
「うん。知らない」
 と頷いた。
 だから私は、しみじみ驚いてしまう。
「じゃあ、今、あなたは何歳なのかも分からないの?」
 まさかそんなことがあるはずない。そう思っての質問だったのに、ルクレイはまた頷いた。
 言葉を失ってしまった私に構わず、そんなことはたいした問題ではない、と思っているような顔だ。
 でも。
 だってそんな、まさか誕生日を知らないだなんて。
「お誕生日のお祝い、したことないの……?」
「エリスはあるの?」
「もちろん、あるよ」
 答える語尾が、ちょっと震えた。当たり前だと思っていたことが、もしかしたら彼女を傷つけるかもしれない、と気付いたから。
 でも、ルクレイはやっぱり平然としていて、新しく知る物事にわくわくするように目を輝かせた。
 私は思いついて、はりきって提案した。
「そうだ! それじゃあ、せっかくだから、今日にしようよ」
「今日……?」
「そう。今日は、ルクレイのお誕生日。だから、お祝いをしましょう?」
「ぼくの誕生日……!」
 すばらしい思いつきに、ルクレイも乗り気だ。
 好奇心に目を輝かせて私を見る。
「ねえ、お祝いって、何をするの?」
「そうねえ……必要なものは……主役と、お祝いにかけつけたお客様と、おおきなケーキと、プレゼント! 歌を歌って、お願いごとをして、ろうそくの火を吹き消すのよ」
「お願いごと?」
「ええ。来年までには……次のお誕生日を迎える前には叶うのよ」
「そうなんだ……楽しそうだね。早速準備をしよう」
 私たちはソファから飛び降りて、サンルームを駆け足で出て行く。折よく、厨房からは甘い焼き菓子の香りがした。見に行くとメイドさんがマフィンを焼いていた。ケーキじゃないけど、もちろんこれでも十分だ。焼き上がったマフィンをお皿に盛りつけてサンルームへと運ぶ。思いつく限りのお花やリボンでテーブルを飾って、真ん中にお皿を置いた。
 塔のように積み上げられたマフィンのてっぺんにろうそくを立てる。
 あとからメイドさんが淹れたての紅茶を運んできてくれた。心地良い香りが部屋中に広がって、とてもいい気分になる。
 準備が整ったテーブルの前で、一度おごそかな気持ちをつくった。そうして、勿体ぶって、告げる。
「ハッピー・バースデイ、ルクレイ。今日は、私の人生にあなたが登場したはじめての日。……友達になった記念日ね!」
「それじゃあ、今日はきみの誕生日でもあるんだね。エリス、おめでとう」
「ありがとう、ルクレイ!」
 私のお客様はルクレイで、ルクレイのお客様は私だった。お互いに祝福して、お庭で摘んだとっておきのかわいいお花を交換する。
 それから一緒に歌を歌って、ろうそくの火を吹き消す儀式に進む。
「一緒にお願いごとをしましょう。ルクレイは何をお願いする?」
 マフィンの塔のてっぺんで、火はゆらゆら、ゆらゆら揺れる。そのあかりを見つめる瞳にも、あかく、ゆらゆら揺れて映っていた。
「また新しく、鳥に出会えたらいいな。明日も、明後日も……今日と同じように、ずっと」
 そのお願いごとは、この森ではすぐに叶う、ひどく控えめなものに思える。だけど、ルクレイは少しも遠慮した様子はなく、それを最大限の願いごとだと思っているような真剣さをうかがわせた。
「エリスのお願いごとは?」
「私のお願いごとはね……えーっと……」
 沢山あって、咄嗟に一つを選べない。
 日傘……このあいだ見かけた、ショーウィンドウの中の、大きなお花みたいな日傘を思い出す。素敵だった。他にもたくさん、欲しいものをあげたらきりがない。
 でも本当は、何がいちばん欲しいんだろう。
 欲しい物は……私の欲しい物に、本当は、形なんかない。
「……あ」
「決まった?」
 私は、首を横に振る。
「……私、今日、お誕生日なの」
 ――これは、つまり、今ルクレイと一緒に決めたごっこ遊びの誕生日って意味じゃない。
 どうして忘れていたんだろう。
 今日、私は誕生日だった。
 家族が待ってる。ううん、待ってないかも。
 なにせ兄弟が多くて、私は忘れられがちだ。優秀な姉たちと、身体が強くない弟がいて、そのあいだで隙間に隠れてるみたいに地味で目立たない。だから、誕生日を忘れられてしまうことが多いのだ。
 忘れられているかもしれない。確かめるのが怖くて、私は家へ帰る道を遠回りして――
 そして、この森に迷い込んだ。
 誕生日だって思うから、帰るのが怖くなる。期待をしてしまうから。裏切られるのが怖いから。
 だから、いっそ忘れてしまえばいいと願った。
 今日が、昨日とも明日とも同じ、ただのなんでもない日であれば、私は何も怖くない。
「どうして思い出しちゃったんだろう」
 思い出した途端に、落ち着かない気持ちになった。
 まだここにいたい。
 ルクレイの誕生日のお祝いをしたい。
 まだろうそくも消していないのに。だけど、いてもたっても居られなくなってしまう。
「まだ明るい今のうちに帰ったほうがいいよ。森は、日が落ちたらすぐ真っ暗になっちゃうから」
 私の落ち着きのなさに気付いたのかどうか、彼女は何気ない調子で言った。その言葉に背中を押されて私は椅子を引いて立ち上がる。
 せっかくの素敵なパーティに、一人だけ残してしまうのは忍びない。でも、私の中にはなにか予感があって、どうしてもすぐに帰って確かめたくなってしまった。
 今年こそは、って。
 毎年思って、毎年落ち込むのに。
 でも今年こそは、もしかしたらみんな覚えていて、私の帰りを待っているかもしれない。
「ごめんなさい、ルクレイ……私、帰る……」
「ううん。楽しかったよ、エリス。お祝いをしてくれてありがとう」
「ねえ、来年もまたお誕生日のお祝いを言いに来てもいい? そのときは、ちゃんとプレゼントを用意するわ」
 ルクレイは頷いて、それで約束が成立した。
 ほっとして、私はサンルームをあとにする。
「おめでとう、ルクレイ。新しい素敵な一年を過ごしてね。あなたの願いごと、きっと叶うわ」
「うん。きみの願いごとも、叶いますように」
 それを別れの言葉にかえて、私は森へ歩み出した。


 誕生日に必要なものは、主役と、お祝いにかけつけたお客様とおおきなケーキと、プレゼント。歌を歌って、お願いごとをして、ろうそくの火を吹き消す。
 住み慣れた家が華やかに飾り立てられて特別な一日を過ごす。姉たちも、弟も、もちろん父も母も、みんな忙しいけれど、今日は一緒に食事をするの。
 きっともうじき、森を抜けて、街の中へ。窓の明かりを目印にしてまっすぐ歩いて、玄関に「ただいま!」って言って飛び込めば――クラッカーを鳴らすのはやりすぎかしら。だとしたら、「ハッピーバースデイ」って、声が聞こえてくるはずだから。
 それが、私が欲しいもの。
 叶いますように。そう願ってくれた彼女の言葉に励まされて、私は家へ帰る。

 

 *

 

 サンルームの真ん中に、飾り立てられたテーブルがひとつ。塔のように積み上げられたマフィンのてっぺんで、今、揺れるろうそくの火が消えた。
 ふーっと息を吹きかけた少女が、小さく笑う。
「一緒に食べよう」
「はい。失礼します」
 メイドは隙のない所作でスカートをさばいて椅子に腰かけた。急な空席はそうして埋められ、その姿は、はじめからそこが彼女の招待席だったかのように馴染んでいる。
「お誕生日おめでとうございます」
 ふいにメイドが囁くから、少女は意外そうにまばたきをした。しかしすぐに素直に頷いて、笑う。
「ありがとう」
 そうして、欠員が出たにもかかわらず、ささやかなパーティは続いていく。

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